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1 独擅場(どくせんじょう) ★意味・・その人ひとりが思い通りに活躍できる場。 【例文】・・そのパーティーは、ずば抜けた話術を持つ彼の独断場だった。 ある人にとって思いのままに振る舞い、活躍できる場面や場所のことをいいます。「擅」には独り占めにするという意味があります。 これを「擅」と書いて「独壇場(どくだんじょう)」と読む言葉もありますが、意味はまったく同じです。本姓は誤用ですが、徐々に定着しつつあるようです。 「擅」と「壇」の字形が似ていることや、「教壇」や「土壇場」のように壇が場所を意味する文字であることなどが相まった結果、この誤りが定着したと考えられます。 ★ポイント 類似の言葉に「ひとり舞台」があります。 2 禍根(かこん)を残す ★意味・・災いの原因を残す。 【例文】・・争いや痛み分けとなり、禍根を残す結果になった。 後々、大きな災難の要因となりかねない何かを残すことをいいます。「禍根」とは不幸せの根、災いの起こるもとをいいます。 「このままでは禍根が残ることになる」というように、争いが起こった後、問題が解決した後でも、不安要素が残っている場合を使います。 禍根と似た言葉に「遺恨(いこん)」がありますが、こちらは「根」ではなく「恨」と書きます。後々まで残る。忘れがたい恨みのことです。スポーツでは遺恨のある相手との試合を「遺恨試合」といいます。 ★ポイント 争いの原因を取り除くことを「遺恨を絶つ」といいます。 3 ご破算(はさん) ★意味・・積み重ねたものを捨てて何もない状態にする。 【例文】・・設計上のミスが見つかったので、建設計画をご破算にした。 それまで進めていた計画を白紙の状態に戻すこと、また、すべてむだになってしまうことをいいます。 「ご破算」とはそろばんで珠を払い、ゼロの状態にすること。そこから、物事をゼロの状態に戻すことをいうようになりました。 ご破算には自発的な印象がありますが、外部からの要因でむだになる場合は「台無し」を多く用います。ちなみに、台無しの「台」とは仏像の台座のことで、台がなくなるとそれまでの威厳がなくなってしまうことを意味しています。 ★ポイント 「ごはさん」「ごわさん」ともいいます。 4 及び腰(およびごし) ★意味・・自信がなく消極的な態度。 【例文】・・時間が経つに連れて、転職に対して及び腰になってしまった。 中腰になって手を前に伸ばし、物を取ろうとする不安定な姿勢のことです。この頼りない姿勢にたとえて、自信のなさそうな様子や、遠慮をしている様子を言い表すようになりました。「へっぴり腰」も同様の意味の言葉で、おならでもするかのような体勢が由来となっています。 「腰」を使った表現には、責任を逃れようと今にも逃げ出しそうな態度をいう「逃げ腰」や、相手に立ち向かう気配のない消極的な態度を指す「弱腰」などがあります。 ★ポイント 「及び腰」の「及ぶ」は、遠くのものに手が届くという意味です。 5 糊口(ここう)をしのぐ ★意味・・食べるのがやっとの貧しいせいかつをする。 【例文】・・役者の仕事がないときは、アルバイトをして糊口をしのいでいる。 食事をするのがやっとのような、ギリギリの貧しい生活をすることです。「口を糊(のり)する」という言い方もあります。 「糊」は米から作られた「のり」だけではなく、「おかゆ」のことを指します。「糊口」とはおかゆを口にすることです。おかゆでおなかをふくらませ、なんとか生活をしているという苦しい様子を表しています。 同様の言葉に「口しのぎ」「口過ぎ」があります。また、貧しい生活を支える生活のことを「糊口の資」といいます。 ★ポイント ギリギリの生活をすることを「露命(ろめい)をつなぐ」ともいいます。 6 沽券(こけん)に関わる ★意味・・面目や対面に差し支える。 【例文】バカにされたまま引き下がるようでは沽券に関わる。 評判や品位、対面などに差し障りとなることをいいます。例文のようにプライドが傷つけられそうな状況で、よく用いられる言葉です。 「沽券」とき日本で古くから使われていた、土地や家などの売り渡しを証明する書類、権利書のことです。土地を売り買いした際の代金も書かれていたため、沽券は土地の価値を証明するものでもありました。 そこから、沽券は人の価値、品位などを表すたとえにも使われるようになり、「沽券に関わる」という言葉が生まれたのです。 ★ポイント 同様の意味を持つ言葉に「面子に関わる」「示しがつかない」などがあります。 7 異を挟(はさ)む ★意味・・他人の考えに対して、別の意見や疑問を出す。 【例文】・・成立しつつあった案件に異を挟む。 ある意見に対して、疑問や別の意見を差し挟むことをいいます。似ている言葉に「異を立てる」や「異を唱える」があります。 「異」を使った慣用句はほかにもあり、「異とするに足りないむはそうなるのが当然で、ことさら驚くほどではないということです。 また、男女の結びつきは奇妙で思いもよらないものだという意味の言葉に「縁は異なもの味なもの」があります。この場合の「異」は別のものという意味ではなく、普通とは違う珍しいものという意味です。 ★ポイント 不思議なことを指して「異なこと」といいます。 8 手元不如意(てもとふにょい) ★意味・・お金がない、家計が苦しい。 【例文】手元不如意で今日の飲み会は参加できそうにありません。 手持ちのお金がないこと、暮らし向きが楽ではないことをいいます。「手元」とは手元にあるお金という意味です。懐具合や暮らし向きのことを表します。 そして「不如意」は、自分の思い通りにはならないということ。不本意な結果になることを「不如意な結果」などといいます。 例文のようにお金がないので誘いを断りたいときは「台所事情が苦しい」「懐が寂しい」などということもできます。お金がないという状況を、婉曲的に相手に伝えられるでしょう。 ★ポイント 「如意」は思い通りになること。「西遊記」に登場する「如意棒」は持ち主の思い通りに伸縮し、自在に扱える棒という意味です。 9 寡聞(かぶん) ★意味・・不勉強なため聞いたことがない。 【例文】・・寡聞にして存じ上げません。 知識に乏しくて、見聞きする経験が少ないため、そのことを知らないという意味の言葉です。自分の見識が狭いことを謙遜する際に「寡聞にして」などと使います。 自分の知識の少なさや考えの狭さをへりくだっていう表現方法はほかにもあります。「管見(かんけん)」は狭い見識という意味です。まるで管を通して見ているようだという意味で「管」という字を使っています。見識が浅はかだという意味の「浅見(せんけん)」という言葉もあります。 ★ポイント 「寡聞少見(かぶんしょうけん)」も見識の狭さや世間知らずを謙遜する際に使う言葉です。 10 はばかりながら 「はばかりながら、申し上げます」というように、目上の相手に遠慮をしながらも、意見をしたい場合に遣います。「恐れ入りますが」「出すぎたことですが」と同様の表現です。 また、「はばかりながら、これでも私は専門家です」というように、「相手と比較すれば取るに足らないかもしれないが」という謙遜をしつつ、自負や主張をする際にも使います。 11 含みおく 事前に了解しておく。事情を心に留めておくという意味です。 多くの場合「この点につきましては、何卒お含みおきください」というように、相手に対して事情を理解してほしいときに使います。「ご了承ください」「ご承知おきください」などと言い換えられるでしょう。 商品や契約の内容が今後の状況しだいで変わってしまう可能性がある場合など、ビジネスシーンでは多く見られる表現でしょう。 12 潔(いさぎよ)しとしない 自分自身の両親や信念に照らし合わせて、どうしても許せないということをいいます。自分の行動や状況について使い、「黙って引き下がるのを潔しとしない」などと使います。 13 異存(いぞん)はない 相手の話を盛り上げたり促したりするために、会話の途中で言葉を挟む「異存」とはある意見に対して反対する考えのことです。それがないということで、同意を示す表現です。異存の類語には「異論」や「異議」があります。 「お送りくださいましたご提案に、異存はございません」というように使うことで、相手へ賛成を表現できます。 14 ひそみに倣(なら)う 物事の善悪を考えずに、他人のまねをすることをいいます。また、「先輩方のひそみに倣って行っただけです」などと、人と同じことをするときに、謙遜していうこともあります。 15 言わずもがな わざわざ言わなくてもいいこと。「言わずもがなのことを言う」などと使います。言うまでもなくという意味もあります。この場合は「大人の言わずもがな、子どもたちでも当たり前のように持っている」などと使います。 16 不退転(ふたいてん) 信念を曲げず、何事にも屈しない強い意志をいいます。「不退転の決意で臨む」というフレーズを使うことで、信念を持って取り組むことを表明できます。演説や会見などでも耳にするフレーズです。 17 酸鼻(さんび)を極める 酷く痛ましい、悲惨な状態のことです。「酸鼻を極めた事件」などという表現をします。 「酸鼻」とは鼻に痛みを感じて涙がにじみ出ることで、ひどく心を痛めて悲しむことを表しています。 18 胸突き八丁(はっちょう) 物事を達成するまでの道のりでもっとも苦しい局面、山場や難所をいいます。 富士山の頂上に至るまでの最後の8丁(872メートル)は一番きつく、胸を突かれるほどの苦しさであることから、急斜面のここぞという場面のことをこう呼ぶようになりました。 19 伏魔殿(ふくまでん) 悪魔が潜んでいる殿堂のことをいいます。そこから転じて、幾多の悪事や陰謀がたくらまれる場所を指す言葉にもなりました。腐敗の進んだ組織などを指して遣います。 20 気脈(きみゃく)を通じる 相手と意志を伝え合う、示し合わせることをいいます。「あのグループには、かねてから気脈を通じていた仲間がいる」などと使います。「気脈」は血液が通う道筋のことです。 21 顛末(てんまつ) 物事の最初から最後までのことをいいます。たとえばあるできごとの一部始終について説明する場合、「事の顛末を語る」というように使います。「顛」はものの始めのほうを、「末」はものの終わりのほうを意味しています。 22 多寡(たか) ものの分量や金額が多いか少ないかという意味です。「金額の多寡は問わない」などと使えます。同様の言葉に「多少」がありますが、多寡のほうが改まった場面で使われやすい表現です。また、多少は「少し」の意味でも使います。 23 可及的(かきゅうてき)速(すみ)やかに できるだけ素早くという意味です。「可及的」は可能な限り、なるべくという意味で、役所の文書や政治家の答弁などでよく使われる言葉です。 急を要するという意味の言葉に「火急」がありますが、「火急的速やかに」とはいいません。 24 碩学(せきがく) 学問が広く深いこと。または、そういった人を意味する言葉です。なお、知識が深く豊かなことを言い表す言葉にはほかにも、「博覧強記(はくらんきょうき)」「顕学(けんがく)」があります。 25 鼻薬(はなぐすり)を嗅(か)がせる 賄賂を使うことをいいます。「鼻薬をきかせる」ともいいます。 「鼻薬」には鼻の病気に使う薬という意味のほか、泣きながら鼻を鳴らす子どもをなだめるために与えるお菓子という意味もありました。それが少しの額の賄賂という意味でも使われるようになったのです。 26 遅滞(ちたい)なく 物事が予定に対して、遅れたり滞ったりしないことをいいます。「スケジュールの通り、遅滞なく振興しています」などと使います。遅滞は予定より遅れることをいい、同様の言葉に「遅延」があります。 |
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