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1 庇(ひさし)を貸して母屋(おもや)を取られる ★意味・・一部を貸したために、全部を奪われること。 【例文】・・友人に頼まれて店の一角に彼女の作品を置いていたら、これが好評で今では彼女の店のようになってしまった。まさに庇を貸して母屋を取られるだよ。 自らの所有物の一部だけを貸したつもりが、いつの間にかすべてを奪い取られてしまうこと。また、保護してやって相手から、恩を仇で返されてしまうことをいいます。 「庇」は家の窓や出入り口の上に張り出した、日差しや雨を防ぐだめの小さな屋根のこと。「母屋」は家の中心となる建物のことです。 同様の意味を持つ言葉に「鉈(なた)を貸して山を伐(き)られる」「飼い犬に手を噛まれる」などがあります。 ★ポイント 「軒を貸して母屋を取られる」という言い方もします。 2 耳朶(じだ)に触れる ★意味・・耳に入る。 【例文】・・望んでいないのに、さまざまな噂が耳朶に触れた。 「耳朶」とは耳たぶ、または耳のことです。耳に入ること、聞き及ぶことを「耳朶に触れる」といいます。耳に入る情報がよいことでも悪いことでも使えます。 耳に入ることを意味する表現には「耳に達する」というものもあります。こちらは、何か隠していたことがバレてしまうことを意味します。 もしも不快な話を聞いてしまった場合は「耳が汚れる」といいます、「耳を洗う」「耳をそそぐ」という言葉もありますが、これは世の中の汚れた話を聞いた耳を洗うということで、出世争いにとらわれない、高潔さを意味します。 ★ポイント 「耳朶」はこのまま「みみたぶ」とも読みます。 3 きびすを返す ★意味・・後戻りする。引き返す。 【例文】・・忘れ物に気づき、きびすを返して家まで走った。 きびすは漢字で書くと「踵」で、かかとのことです。 「きびすを返す」とは、かかとの向きをひっくり返す、つまり反対を向く様子を表しています。後戻りをしたり、引き返したりするさまをいいます。同じ意味で「きびすをめぐらす」ともいいます。 きびすを使った言葉には「きびすを接する」というものもあります。物事が連続して、間をおかずに起きることをあらわしています。「きびすを接して凶悪な事件が続く」などと使います。 ★ポイント きびすは「くびす」ともいい、「くびすを返す」でも正解です。 4 人後(じんご)に落ちない ★意味・・他人に劣らない。 【例文】・・私も郷土を愛する気持ちにおいては、人後に落ちないつもりです。 周囲の人に先を越されないことを意味する表現です。同様の意味の言葉に、「見劣りしない」「引けをとらない」などがあります。 実力があって負けないこと、自信があることをアピールする際や、相手の優秀さを讃えて使うことができます。 中国の詩人、李白の詩に「気岸(きがん)遥かにしのぐ豪士の前、風流あえて落ちんや他人の後に」(気位の高さでは豪傑を遥かにしのぎ、風流なことでは人後に落ちない)という一節があり、それが語源となっている。 ★ポイント 「人後」とは他人の後ろ、下位のことです。「人語」と書くのは誤りです。 5 よんどころない 【例文】・・よんどころない事情があり、本日は参加できません。 そうするより仕方がない、どうしようもないことをいいます。やむを得ない事情で断らなければならないときなどに使います。 漢字では「拠所(よんどころ無い)と書きます。「拠り所」とは物事の根拠や、頼りとなるもののことです。「よんどころない」は拠り所がないため、どうにもならないのです。 響きの似た言葉に「寄る辺ない」という言葉がありますが、こちらは意味が異なります。頼りになる親類縁者や身を寄せるあてがないということで、孤独であることを「寄る辺ない身の上」などと言い表します。 ★ポイント 類語は「止むに止まれぬ」「致し方ない」などです。 6 折り目(おりめ)正しい 【例文」・・折り目正しい好青年。 礼儀正しくきちんとしていること、作法がしっかりしていることをいいます。 ここでいう折り目とは、着物を折りたたんだ際にできる線のことです。間違ったたたみ方をすると、着物はシワができてしまい美しくありません。きれいに保管するためには、折り目が正しい必要があるのです。 着物が由来となった言葉は、わたしたちの生活の中に溶け込んでいます。理屈が合うことを「辻褄(つじつま)が合う」といいますが、辻は縫い目が十字になる部分、褄は着物の裾の両端。どちらもきれいに合っていなければいけないものです。 ★ポイント 礼儀正しいことをいう類語に「慇懃(いんぎん)」があります。「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」は表面の態度は丁寧だが実は尊大であることです。 7 汗顔(かんがん)の至り 【例文】・・学生時代のことを言われると汗顔の至りです。 「汗顔」とは顔に汗をかくほど恥ずかしいということ。「至り」はある物事が最高の状態になることです。これらを組み合わせて、恥ずかしさの極みにあるということを表しています。 何かを失敗して恥ずかしいという場合だけでなく、恐縮する意味で使うこともできます。相手から褒められた際に「まだまだ未熟で、汗顔の至りです」というように使いましょう。 汗顔とは「厚顔(こうがん)」を間違えないようにしましょう。厚顔とは恥知らずなことです。 ★ポイント 類語に顔が赤くなるほどとても恥ずかしい、という意味の「赤面の至り」があります。 8 語るに落ちる 【例文】・・おだてに乗られてペラペラ話しすぎた。語るに落ちたな・・・。 問われたときは秘密を漏らさないために警戒して黙っていても、自分から話し始めると、うっかり秘密を漏らしてしまうこと。「問うに落ちず語るに落ちる」を省略した言い回しです。 しかし、この言葉を「語るほどの価値もない、つまらないこと」というような、誤った意味で使う例が見受けられます。「落ちる」の意味を「劣っている」などの間違った意味に捉えたための誤用でしょう。 「語るに落ちる」の「落ちる」は「持ち堪えられなくなる」「決着がつく」という意味で使っているものだと考えましょう。 ★ポイント 犯人が自白することを「落ちる」と同様に使い方だとわかれば、覚えやすいでしょう。 9 彼を知り己を知らば百戦(ひゃくせん)殆(あやう)からず ★意味・・相手と自分、どちらのことも知っていれば負けることはない。 【例文】・・彼を知り己を知らば百戦殆からずというし、対戦相手の試合を見ておこう。 相手の情報を詳しく知り、自分のこともしっかり把握していれば、百回戦っても負けることはないという意味です。中国の兵法書『孫子』に書かれている言葉の中でも有名なもののひとつです。 この後には「自分のことを知っていても、相手のことを知らなければ勝ったり負けたりで勝負はつかず、どちらも知らなければ必ず負ける」という意味の言葉が続きます。仕事やスポーツだけでなく、どんな人間関係においても教訓にてせきる言葉です。 ★ポイント 『孫子』は現代においても洋の東西を問わず高く評価される兵法書です。 10 天地神明(てんちしんめい)に誓って 「天地神明に誓って、嘘や偽りは申し上げません」というように、自分の言葉に嘘がないことを宣言する際などに用いられます。 「天地神明」とは、天と地のすべての神々という意味。「天地天命」というのは誤用なので気をつけましょう。 やや大げさな表現となってしまうため、あまり乱用すると反対に信用を失ってしまうかもしれません。 11 綺羅(きら)、星の如く 優れた人が並んでいる様子を表す言葉です。「綺」と「羅」はそれぞれ織り方の違う絹織物。綺羅は豪華な衣服のことで、着飾っている人や立派な人のことを意味します。そのような人が星のように多く並び、集まっていることを「綺羅、星の如く居並ぶ」といいます。 「綺羅星」とひとつの単語として使うのは誤りです。正しい言葉の区切りは「綺羅、星の如く」です。 12 斜(しゃ)に構える 物事に対してまじめに向かい合わずに、批判的であったり皮肉っぽい態度を取ったりすることです。剣道で刀を斜めに構えること、そこから転じて身構えること、改まった態度を取ることという意味もあります。 しかし現在は、多くの場合で、少しひねくれた態度という意味で使われています。 なお、「斜」は「はす」とも読みますが、「斜に構える」の場合は「しゃ」と読むのが一般的です。 13 合いの手を入れる 相手の話を盛り上げたり促したりするために、会話の途中で言葉を挟むことです。歌や踊りに合わせて掛け声や手拍子を入れることもあります。元々は邦楽において歌と歌の間に入る、三味線などの楽器だけで演奏される間奏のことをいいました。 なお、「相槌を打つ」との混同から「合いの手を打つ」「相槌を入れる」とする例が見受けられますが、どちらも誤用です。 14 出物腫れ物(でものはれもの)所(ところ)構わず 「出物」(おなら)も「腫れ物」(できもの)も、時と場所に関係なく出てしまうものだということです。 大小便や出産についてもいい、タイミングを選べないのだから、咎められないという意味で使います。 「出物腫れ物時知らず」ともいいます。 15 精彩(せいさい)を欠く 調子が振るわず、冴えないさまをいいます。「いつもの動きと比べると、ひどく精彩を欠いていた」などと使います。 「精彩」とは活気にあふれて生き生きといていることをいいます。 16 刺客(しきゃく) 暗殺するという意味です。「しかく」のほかに「しきゃく」「せっかく」とも読みます。最近は選挙において、党を離反した議員に対して送り込まれた、強力な対立候補という意味の用法が広まりつつあるようです。 17 一家言(いっかげん) その人独自の意見や主張のこと。また、見識のある意見のことです。「国際問題については一家言持っている」というように使います。「いっかごん」という読み方はありがちな誤りなので要注意です。 18 胸算用(むなざんよう) 心の中だけで計算し、見積もりを立てることです。「成功すれば大きな利沖を上げられると胸算用する」というように使います。 「胸(むね)積もり」「胸勘定(むねかんじょう)」ともいいます。 19 青写真(あおじゃしん) 計画や構想のことをいいます。元々は、露光した部分が青色になるモノクロ写真のことをいい、それが機械や建築物の図面を複写する際に使われたことから、設計図のことを青写真というようになりました。 それが転じて、将来の計画を表す言葉になったのです。 20 長広舌(ちょうこうぜつ) 「長広舌をふるう」などと使い、長々とよどみなくしゃべり続けることをいいます。 元々は「広長舌(こうちょうぜつ)」といい、仏教用語の三十二面相(仏の持つ優れた身体的特徴)のひとつで、舌が広くて長いことを表す言葉でした。 21 総本山(そうほんざん) ある分野、組織を統括する中心地のこと。「弊社製品開発の総本山である研究所」のように使います。本来は仏教において、ある宗派の重要な寺院(本山)を取りまとめる、最上位に位置する寺院のことです。 22 試金石(しきんせき) 人の力量や物の価値を調べるための基準となる物事をいいます。「今回の試験は、今後を左右する試金石になるだろう」などと使います。 貴金属を鑑定するために使われる黒い石が由来です。ここに金などを擦り付け、その条痕(じょうこん)を見て純度を鑑定するのです。 23 天王山(てんのうざん) 勝敗の大きな分かれ目となる、重要な場面や時をいいます。 由来となったのは、京都にある天王山という山。ここで行われた「山崎の戦い」で、羽柴秀吉は明智光秀を打ち破りました。 秀吉が天下人への道を行くために重要な一戦があった場所なのです。 24 水掛論(みずかけろん) 自分に都合のよい意見ばかりを出して、お互いに一歩も引かずに争い続けることです。隣り合った田を持つと舅と婿が、自分の田に水を引こうとして口論になり、水を掛け合っていつまでも争い続ける、『水掛論』という狂言が元になったといわれています。 25 堅忍不抜(けんにんふばつ) 忍耐強く我慢して、心を動かさず耐え忍ぶことをいいます。似たような意味の言葉に「志操堅固(しそうけんご)」「不撓不屈(ふとうふくつ)」などがあります。 26 乳母日傘(おんばひがさ) 子供が大切に育てられること、過保護に育てられることをいいます、乳母に抱かれ、日傘を差しかけられて、大事に育てられる様子を表しています。 「乳母」は「うば」とも読みますが、この四字熟語のときは「おんば」と読みます。 27 判官贔屓(ほうがんびいき) 弱い立場におかれている者に対して同情を寄せたり、贔屓をしてしまうことをいいます。「判官」は「はんがん」とも読みます。 九郎判官と呼ばれた源義経が、兄の頼朝から疎まれて悲劇的な最後を遂げたことに対して、人々が同情したことから生まれた言葉です。 28 高論卓説(こうろんたくせつ) 非常に優れた意見や、程度の高い論説のことをいいます。他人の意見を褒め称える際などにも使えます。 29 意味深長(いみしんちょう) 文章や言動が非常に奥深くて、含蓄のあるさまをいいます。また、表面的な意味の裏側に、隠された別の意味があることもいいます。 「意味深長な笑み」などと使います。この場合、省略して「意味深」という使い方もします。似た意味の言葉に「意在言外(いざいげんがい)」「微言大儀(びげんたいぎ)」があります。 30 軽佻浮薄(けいちょうふはく) 軽はずみで浮ついた言動のことです。「軽佻浮薄名行いが祟って、信用を失った」などと使います。類語に行動や物事を軽々しく決めることをいう「軽率短慮(けいそつたんりょ)」などがあります。 31 意気軒昂(いきけんこう) 元気や勢いがあるさまや、意気込みが盛んなさまをいいます。「意気」は積極的な気持ち、「軒昂」は高く上がる様子をいいます。 類語に、明るくて元気で誇らしげな様子をいう「意気揚々(いきようよう)」があります。 |
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